クカバラベーカリー
雑記帳

Kookaburra

bakery

かぼちゃのスープの話。

Nov 25, 2018 | オーストラリア, メルボルン, 旅の便り, 食べ物

6年ほど前わたしがメルボルン市内のHardware laneというところで働いていたころ、同じとおりにSiloというお店があった。コーヒーマシンの横を抜けて細く続く店内に入ると共有テーブルが狭い店の真ん中にどっしりと腰を据えている。こちらで”Communal table” と呼ばれる大家族の食卓みたいな共有テーブルは、その広さと重厚感と隣りや向かいの客との適度な距離感が不思議に心地いい。長いテーブルと並行して壁沿いに機能的な、でもキッチンと呼ぶにはあまりに小さな創作スペースがデザインされていて、そこから運び出さる料理が泣けるほどおいしい。
あの頃時々ここへ来ては、おいしいコーヒーと料理をいただきながら、本を読んだり手紙を書いたり、小さな悩み事をしたりキッチンの流れに見とれたりして贅沢な時間を過ごしたもの。職場が変わって市街に行く用事がなくなって、次にこの場所を訪れたとき、店はBrothlというBroth(鳥や魚の骨や野菜からとったうすいスープ)のお店に変わっていた。朝コーヒーを飲みながら前と似たような時間を過ごす場所ではなくなっていたことは寂しかったけど、誠実で洗練されたスープはとても味わい深かった。
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2年ほど前にBrothlが店を閉じたことを最近になって同僚から聞いた。SiloもBrothlもごみを一切出さない飲食店として経営していた。キッチンから出た野菜くずやなんかを店の裏に設置された小さなやり手の機械でたい肥にしてそれを有機農家に提供してはそこからうまい野菜を買って、牛乳やなんかもアルプスの少女ハイジみたいなあのカンカンに入れて運ばれてくるし、家具からコーヒーカップまで、あらゆものがリユースでリサイクルで、プラスチックの端くれひとつ見ない。ほかの店のごみ箱と変わらない大きさの堆肥マシンが占める公共スペースに対してメルボルン市が求めた賃料を巡って揉めて、結局彼らは立ち退いた。”Zero Waste”って聞くには優しいけど、実際このやり方で食ってくのは不可能からほんの数ミリほど離れたものだってことは、同じ業界に身を置く者なら痛いほどよくわかる。彼らが消費に忙しい街のど真ん中に作り上げた空間は、街イチバンのカフェであり、エコシステムのモデルルームであり、憩いと学びの場で、メルボルンの街はひとつ財産をなくした。
SiloやBrothlをはじめたJoost Bakkerという人の記事をまた少し読んでいる。環境に関する本をいくらか読んできたけど、これほど知識や経験が広く実用的でアイディアに富んで楽しくて夢がある話はあまり聞けない。Brothlがなくなって2年くらいか、彼はもうとっくに次に進んでいる。負けられないな。わたしももっと学んで、自分にできることを広げていかないと。
そうだ、かぼちゃのスープの話だけど、Siloでわたしは意識を失うほどおいしいかぼちゃのスープを食べた。甘くてとろりとなめらかで、後味よく体に染み入るあの冬の日のスープは
原材料:かぼちゃ
しっかりとった野菜のだしは入っていたはずだけど、あのスープはなんだか凄かった。ああゆう料理はおいしい食べ物がキッチンでだけで作れるものじゃないことを教えてくれる。度肝を抜いたあのかぼちゃスープはうまいうまいかぼちゃを作る自然と農家とそこにうまく手を加える料理人とのまさに共同作業の賜物だった。